仕事の魅力から会社を探る
富士通コンポーネント株式会社

テクスチャーの凹凸感が指先に伝わる触覚マウス

桜井 聡氏
開発統括部
第一要素技術開発部
「世の中には視覚に訴えるディスプレイや、聴覚に訴えるスピーカーなどがあります。私たちとしてはそうした人間の五感に訴えることができる全く新しいデバイスができないかと考えていました」(桜井聡)。同社の持つリレーなどで培ったコイルと磁石を使った駆動技術を活用することで、新たに考え出されたデバイス、それが触覚に訴える触覚アクチュエータだった。この技術をマウスに埋め込むことで、画面上に表示されたテクスチャーの凹凸感が指先に伝わってくる触覚マウスが生まれた。
「これは面白いね」。触ってみた関係者は、皆そう思った。
早速、市場サーベイ用として2002年春にマウスサンプル30台をつくり、営業担当者たちがPCメーカー、ゲーム機器メーカーなどに持ち回り歩いた。どのお客様からも、使った瞬間「これは面白いですね」という答えが返ってきた。ただ、価格を提示すると、どのお客様からも返ってくる言葉は、同じであった。「1万円ですか…。高くて使えませんね」。量販店では、1000円もしないマウスが出回っている時代、1万円のマウスを受け入れてもらう余地はなかった。このままでは、ビジネスにならない。そこから、開発部門での仕様の見直しが始まった。
人が使って心地良く、リアルな感覚をいかに出すか

まず、コストダウンを目標に、高価な部品の見直しから始めた。3種類のコントロールICを一つに集約するとともに、ソフトウェアを全面書き換え。位置検出用センサーを光学方式から、駆動系として用いているマグネットの磁界を検出する方式に変更。メカ構造も可能な限り、単純化し、2003年6月、コストダウンを図った二次試作を行った。しかし、うまく動作しない。そこで、かつて有田隆(開発統括部 第一要素技術開発部長)が米国での国際学会で知遇を得ていた、手に仮想の力の感覚を与えるハプティックインタフェースの世界的権威である東京工業大学の佐藤誠教授に相談した。
「最初に展示会で触覚マウスを見たときに、面白い開発をしているなと思いました。ただ力の感覚が与えられるだけでなく、人が使って心地良いもので、リアルな感覚をいかに出すか。そういったエルゴノミクスの強化の面で、触覚提示手法やフィードバック制御方法に関してアドバイスをさせてもらいました」(東京工業大学教授・佐藤誠)。

アドバイスを受け、ハード・ソフトの面で最適化に取り組んだ。
「コストを抑えるためになるべく小さなマグネットで効率良い力を発生させなければなりません。しかも実験に関しては、微妙な触覚を出していくために、パラメータを微妙に変えながら形を決めていくなど、膨大なシミュレーションが必要です。最初は途方にくれましたが、実験計画法を導入することで、効率的な結果が得られるようになりました」(メカ担当者)。
「触覚の位置情報を受け取り、それをパワーに変換していく回路の全体的なコントロールを担当しました。ホール素子により磁界を検出し、それにより位置を導き出しているのですが、磁界の歪みをいかにリニアな磁界の分布に変換していくかといったことにも苦労をしました」(ファームウェア担当者)。
こうした様々な試行錯誤と苦労の末、2004年12月、やっと満足いくものが完成した。
クルマのステアリングヘの搭載を目指して

佐藤 誠氏
東京工業大学
教授
2003年、マウス以外に利用可能な分野がないか調査を始め、思いついたのがクルマのステアリングへの搭載だった。ラジオやエアコン、ナビなどのスイッチの感覚を指で感じながら操作できれば、手を離すことなく、視線も外さずに、運転を楽しむことができる。こうして2005年、自動車関連メーカーと共同開発がスタート。厳しい車載環境に適合するデバイス開発に取り組んでいるところだ。
「現在、インターフェースとしては、目で見る、音で聞くという部分がかなり進んでいますが、力の感覚を伝えるということは基礎的ですが非常に重要になっています。今までのインターフェースでは欠けている部分でもあり、将来は人間の五感に訴えるマルチモーダルな世界が当たり前になってくるでしょう」(佐藤誠教授)。
触覚アクチュエータは、直感的に操作できる車いすのコントローラーを始め、道の情報を知らせるステッキ用コントローラーなど福祉分野での展開も期待されている。同社では今後も、“驚き、喜び、楽しさ”を伝えられる様々なアプリケーションの開発を目指している。

